泣いていたのは、僕だった。
「この家、食べ物ないんだ。必要なら買ってくるけど?」
「いらない。」
「でもなぁ、飢え死にされても困るんだよなぁ。」
「どうでもいいだろ。生きようが、死のうが俺の勝手だ。」
やれやれと真司は近くにあった椅子に再び腰掛けた。
「それはダメだよ。キミは僕の“モノ”だから」
「何ふざけた事を」
「ふざけてないよ。君を拾ったのは僕だ。だからキミは僕のモノ。」
「いい加減にしろよ!」
「それに――」
笑っていた目が、鋭さを持った。
冷たい瞳が真っ直ぐにこちらに向く。
「キミは生きることをやめた。つまり一度死んだんだよ、キミはね。一度捨てられた命を拾ったのは僕。その命は僕のモノ。」
分かった?と聞く顔は再び笑顔を取り戻していた。
「名前は?」
「…………」
「じゃあ僕がつけてあげよう。何が良いかな?ポチ?タマ?…それとも死者?」
「ふざけんな!俺は翔一だ!」
「ふーん…いい名前じゃない。よろしくね、翔一。」
呑気な声はそう言って、手を差し出してきた。
その手を取ることはなく、顔を背ける。
「うーん……じゃあ、こうしよう。キミが僕を殺せたら、キミは自由だ。もう一度生き返る。いいだろう?ただし、絶対にキミが僕を殺さなきゃダメだ。キミじゃなきゃ。」
「なんなら今すぐ殺してやろうか?」
「ははは、それは無理だろうね。その身体じゃさ。それに……僕は強いよ。」
ニヤリと笑った真司は二本目の煙草も吸い終えたようだ。
「職業が死と隣り合わせなもので。そう簡単にやられたりしないんだ。」
「……――いつか絶対、お前を殺してやる。」
「うん。頑張ってね。」
自分の命が狙われたというのに、真司は楽しそうだった。
本当に嬉しそうだった。
俺はこの日から真司の所有物になった。
彼を殺すことが目的となり、彼に生かされることが義務となった。
これが俺――神木 翔一(カミキ ショウイチ)と古林 真司(フルバヤシ シンジ)の出会いだった。