泣いていたのは、僕だった。
翌日の朝方。
後藤の住むアパートが見える位置に車を止め、見張りを始めて二時間…。
「ふぁー…っと」
後部座席から聞こえる欠伸。
「ガキ、眠くなるからやめろ。」
「仕方ねーじゃん。勝手にでてくるんだから。つーか、ガキって言うなよ。」
「ガキはガキだろ」
後部座席から翔一が身を乗り出す。
「隆だって23だろ?大して変わんねーじゃん!」
「4つ離れてりゃ充分違うっつーの!!」
「同い年なのに創とはえらい違いだ。」
「んだと?喧嘩売ってんのか?」
いがみ合う俺たちに割って入ったのは、助手席に座る真司。
「はいはい。その辺にしとこうか。」
「そう言えば、おめーはいくつなんだ?」
考えてみれば真司については何も知らない。
もちろん年齢も。
若くも見えるが老けても見える。
翔一も知らなかったようで、興味ありげに真司を見ている。
「僕は――っと、その前に仕事かな。」
真司の視線の先、アパートの階段を上る男の姿。
間違いない。
写真で見た後藤だ。
「やっとお出ましか。真司、どうす――」
「あ!パパだぁ!!」
「「「!」」」
その声に三人同時に振り返る。
後部座席のさらに後ろから顔を覗かせていたのは絢音だった。
「なっ……絢音!?お前、創と一緒に家にいるはずじゃ――」
翔一が言い終える前に、絢音は車から降り、後藤の元へ駆けていく。
「あっ、ダメだ!絢音!!」
翔一もその後を追いかけて、車から降りる。
「おい!ったく…だからガキは嫌なんだ。」
「創くんの目を盗んで家を出てくるなんて…絢音ちゃんもなかなかやるね。」
「真司、感心してる場合じゃねーって。行くぜ」
「あまり良いシチュエーションとは言えないけど…仕方ないね。」