泣いていたのは、僕だった。
後藤は絢音を左腕で拘束し、右手には持っていた隠しナイフを握って、その刃先を絢音の首へと突き立てる。
「動くんじゃねーよ!」
「うっわぁ……ドラマとかマンガとかでよくあるシチュエーション。まさか本物を見れるなんて」
と緊急事態なのにも関わらず、呑気に語る真司。
俺と翔一は思わず同時に、真司の頭を小突いた。
「んなこと言ってる場合か!緊急事態だろうが!!」
俺の言葉に翔一は頷く。
「分かってるよ。二人とも酷いなぁ」
小突かれた頭を撫でながら真司は言う。
「パパ?」
「絢音、いい子だからパパの言うこと守れるだろう?大人しくしているんだ」
何が父親だ、と俺が言う前に翔一がいち早く後藤に食いかかった。
「お前のどこが父親なんだよ!?」
「だめぇー!」
「「「!?」」」
翔一の言葉に対する反論は、意外にも絢音によるものだった。
「パパいじめちゃダメ!!」
「絢音………」
後藤はニヤリと笑う。
「だそうだ。悪いな、腐っても俺の子なんだよ。」
「お前…!」
今にも飛びかかりそうな翔一の肩を真司が掴む。