泣いていたのは、僕だった。


―真司side―



翔一を拾ってから一年。


この家は、だいぶ狭くなった。


「創、今日の晩飯何?」
「今日は麻婆豆腐にしようと思ってます。……隆、お酒飲むには早すぎますよ。」

翔一の問いに答えつつ、創くんは横目で隆くんを睨む。

こっそり持ち出した酒を隆くんが慌てて戻す。



「さ、酒なんて飲もうとしてねーよ」
「当然です。晩ご飯前に飲まれたら迷惑ですから。寝る前にしてください。」
「へいへい」



……賑やかだ。


ずっと、ずっと昔も賑やかだった気がする。


もういらない過去だけど。
忘れてしまった過去だけど。



ポケットを探って、煙草が切れてる事に気がついた。



「あれ?真司、どこ行くんだよ?」



玄関に向かった僕に翔一が投げかける。



「コンビニ。煙草買ってくる。」



俺の分もなー、と隆くんの声が返ってくる。


「はいはい」


僕は暗い夜の中、一人コンビニへと歩き出した。
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