泣いていたのは、僕だった。





「はいはい。分かりましたよ。」


話がついたようで真司は電話を切った。


「仕事?」
「うん…今回はちょっと面倒かも」
「金、期待出来そうだな!」




最近は残り物ばかりだったから、たまには豪勢なものが食べたい。



「で、今回はどんな奴なんだよ?」
「折島区で起こった傷害事件知ってる?」
「ああ、あの最近ニュースでやってるやつ?」
「そうそう。」



折島区の傷害事件。
ある団体組織、約30名弱をたった一人で壊滅させた事件。
それも一晩のうちに。



「でもあれは死者数0の事件じゃん?凶悪犯に指定されるようなものじゃなくね?」
「それは探し人がいなかったかららしいよ。本当に殺したい奴を探すための演出ってやつ?」


真司は煙草に火をつけた。



「ふーん…で、探し人が見つかったと」
「そういうこと。探し人――子山(ネヤマ)の元に、今夜必ず現れるんだってさ。」
「何で分かるんだよ?んなこと」
「うーん…なんか本人が言ってきたらしいけど」
「はぁぁ?意味わかんね」



わざわざ警察に行き先を教えるだなんて。
まるで捕まえてくださいと言ってるようじゃないか。



「まぁまぁ。僕たちは仕事すれば良いだけの話だよ。」
「そりゃな。で、その間抜けな奴の情報は?」
「名前は矢代 創(ヤシロ ハジメ)。しか分かんないんだってさー」


肩を竦めて真司は笑った。


「しかって…そんなんでどうやって見つけるんだよ!?」
「怪しそうな奴を片っ端から……」
「アホか!!」
「大丈夫だって。何とかなるもんだよ。」
「本当に大丈夫なのかよ?」
「大丈夫、大丈夫」


真司の能天気さに、俺は肩を落とすしかなかった。


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