泣いていたのは、僕だった。



こんなに息を切らして走ったのは、何年振りだろう?


赤い光が近付けば近付くほど、大きくなった。


「真司!」


突っ切ろうとした僕の体を、誰かが引き止める。


「離せ。」



僕の手を掴んだのは、皆保警部だった。


辺りを見れば多数の警察官と消防士達。


「今、中に入るのは危険だ。火が消えるまで待て。」
「それじゃ遅すぎる。」
「真司!」


腕を振り払い、炎の海へと足を踏み入れた。


中に入ると鳴り響いていたサイレンの音さえ聞こえなくなる。

火は上から回ってきている。


左側に設置された階段を駆け上がって、一番炎が上がっている部屋へと近付いた。



炎と煙で視界が悪い。


最初に見つけたのは、人間の下半身。


これは多分、高峰だろう。


上半身は吹っ飛んでしまったようだ。



その下半身と正反対の方向に、ボロボロになった千明が倒れていた。


傍に寄って抱き起こすと千明は微かに瞼を開けた。


「……おせーよ。」
「うん、ごめん。」


抱き抱えようとした僕の腕を、千明は力ない手で掴んだ。


「いいから、もう……いいから。」
「…………」
「二十年付き合ってきた身体だぜ。限界ぐらい、分かる」


千明がむせる度、口から流れ出る血。


それは拭っても、拭っても……流れ続けた。

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