泣いていたのは、僕だった。
「……なぁ、地獄ってどんなところかな?」
「いいとこじゃないかな。少なくともこの世よりは。」
ちげーねーや、そう言って千明は笑った。
「……最後に言っときたいこと、たくさんあんだけどさ」
「うん。」
「一つにしとくわ。」
「うん。」
「ちょっとは禁煙しろよ。」
「…………考えとく。」
「する気ねーだろ」
呆れて笑う千明。
僕は今、どんな顔をしている?
「……じゃあ疲れたから寝るな。」
「うん。」
「暫く顔見たくねーから、せいぜい生き延びろよ。」
「努力する。」
「あー……今度会うまで、俺のこと忘れていいから。」
“おやすみ”そう言って、彼の瞼は静かに閉じた。
「うん。おやすみ」
僕は眠った千明の身体を抱えて、崩壊寸前の建物から出た。
彼の身体を警察に預けた。
その時見た千明の顔はたぶん笑ってた。
僕は帰り道一歩一歩進む度、一つ一つ彼との思い出を忘れることにした。