泣いていたのは、僕だった。
――忘れたはずなのに。
「………じ!おい、真司!!」
月を背に、僕の名を呼ぶ。
「……千明?」
「誰だ、それ?」
僕が座り込んでいる隣に、しゃがみ込んでくる。
「翔一……。どうしたの?」
「それ俺の台詞だから。コンビニ行くって出てったっきり、帰ってこねーし。探しに来てみたら、こんな所で座り込んでるし。」
気がつけば、月は頭上を通り過ぎている。
「ここ真司が俺を拾った場所だよな。」
「うん。」
こんな暗い路地裏で、僕は翔一を見つけてしまった。
「なぁ、何で俺を拾ったんだよ?誤魔化すなよ、ちゃんと答えろ。」
「………忘れられなかったから、かな。」
「はぁ?意味わかんね。もっと分かりやすく――」
「翔一が死のうとしてたから。」
僕は立ち上がる。
「帰ろうか。」
僕が差し出した手を翔一は取った。
僕は思わず翔一を見る。
「……なんだよ?」
「振り払うと思ったから。」
「別に。立ち上がるのに便利だっただけだ。」
夜道を歩き出す。