泣いていたのは、僕だった。
アパートのドアの両脇に立ち、隆と目を合わせ小さく頷く。
隆がドアを蹴破り、俺が率先して中に侵入した。
部屋は薄暗く、中にはベッドが一つ置いてあるだけだった。
そのベッドの上で足を伸ばし、乃南は座り込んでいた。
「あら、早かったわね。」
銃を突き付ける俺達に対して、乃南の反応は冷静だった。
「真司は一緒じゃないみたいね?もしかして死んじゃったのかしら?」
悪びれもなく言う様子に苛立ちを覚えた。
「勝手に殺すな!生きてるよ!!」
「あら、残念。地獄で会うにはまだ先ね。」
「捕まる気は?」
「ないわね。殺される方がマシよ。」
乃南に抵抗する気はないらしい。
俺は引き金に手をかける。
これを引けば、仕事は終わる。
一件落着だ。
なのに、手が震えて動かない。
「翔一?」
隆の声が聞こえる。
分かってる、何も恐れることはないのに。
どうして……
どうして手が動かないんだ!?
「…………っんで!?」
「だから坊やは“まだ”違うって言ったでしょ?真司なら迷うことなく撃つわよ。真司と私は同類だもの」
「うるさい!アイツとお前は違う!!」
笑った顔が似てると思った。
でも……。
ぎゅっと目を閉じ、引き金に掛かった指に神経を集中させる。
力を込めようとした刹那、火を噴いたのは俺の銃ではなかった。
銃声は後方から。
「やっぱり同類……ね……」
座り込んでいた乃南の身体はゆっくりと傾いていく。
最期は笑っていたように見えた。
ベッドに横たわった身体は、それから動くことはなかった。