泣いていたのは、僕だった。



アパートのドアの両脇に立ち、隆と目を合わせ小さく頷く。


隆がドアを蹴破り、俺が率先して中に侵入した。


部屋は薄暗く、中にはベッドが一つ置いてあるだけだった。


そのベッドの上で足を伸ばし、乃南は座り込んでいた。



「あら、早かったわね。」



銃を突き付ける俺達に対して、乃南の反応は冷静だった。



「真司は一緒じゃないみたいね?もしかして死んじゃったのかしら?」


悪びれもなく言う様子に苛立ちを覚えた。



「勝手に殺すな!生きてるよ!!」
「あら、残念。地獄で会うにはまだ先ね。」
「捕まる気は?」
「ないわね。殺される方がマシよ。」


乃南に抵抗する気はないらしい。


俺は引き金に手をかける。


これを引けば、仕事は終わる。
一件落着だ。



なのに、手が震えて動かない。


「翔一?」


隆の声が聞こえる。
分かってる、何も恐れることはないのに。


どうして……
どうして手が動かないんだ!?



「…………っんで!?」
「だから坊やは“まだ”違うって言ったでしょ?真司なら迷うことなく撃つわよ。真司と私は同類だもの」
「うるさい!アイツとお前は違う!!」



笑った顔が似てると思った。

でも……。



ぎゅっと目を閉じ、引き金に掛かった指に神経を集中させる。


力を込めようとした刹那、火を噴いたのは俺の銃ではなかった。


銃声は後方から。



「やっぱり同類……ね……」


座り込んでいた乃南の身体はゆっくりと傾いていく。

最期は笑っていたように見えた。


ベッドに横たわった身体は、それから動くことはなかった。




< 87 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop