泣いていたのは、僕だった。
不思議な事を言う子だ。
「それなら君の方が避難した方が良いんじゃないですか?」
「俺?俺は良いんだ。知っててここにいるから。」
「?」
頭の後ろで手を組んで、青年は笑った。
「で、早く逃げた方がいいと思うけど?」
「いえ、僕にはまだやらなければならない事がありますから。」
「やんなきゃならない事?そんなに重要なのか?」
「ええ、命に代えても」
「へぇ」
青年は何か考えるように空を見て、にっと笑った。
「そういうの格好いいな。」
「君は何をやっているんですか?」
「俺はさっき言ってた凶悪犯を捕まえにきたんだけど」
「…君が?」
「うん。けど名前しか手がかり無くてさ。矢代 創って奴なんだけどさ」
――!
この子が、僕の追って…?
「あ、俺は神木 翔一ってんだ。アンタは?」
「僕…は」
まだ捕まるわけにはいかないんだ。
「僕に名前なんかありません。」
「…そっか。ごめん」
謝る必要なんてないのに。
「一つ聞いても良いですか?」
「ん?」