泣いていたのは、僕だった。
「翔一の身体には消えない痕がある。」
「消えない痕…?」
「傷………虐待の痕。翔一の口から聞いた訳じゃないけどね。でもあれは虐待の傷跡だった。」
火傷の痕、変色した皮膚、無数の切り傷の痕……どれも虐待を思わせるものだった。
「死にたいぐらいに辛かったんじゃないかな。だから彼は、生きることをやめてしまった。」
あの時出会わなければ、きっと翔一はこの世にいなかった。
「創くんには前に言ったよね?翔一は名前以外の全てを投げ捨てたって。一度死んだ彼は、何も持っていなかった。そういう意味だよ。」
「……………」
創くんは黙ったまま何も言わなかった。
僕は隆くんに視線を向ける。
「一度死を迷った隆くんなら、翔一の気持ちが分かるかもね。生への絶望。ただ、翔一の場合は迷うことないぐらいの絶望しかなかったんだろうけど。」
「………まぁ、分からなくもねーな。けど、今は違うだろ。」
僕の視線を交わして、隆くんは片付けを再開した。
「お前と会ったことで変わったんじゃねーの?」
「え………」
「アイツは今、生きることを楽しんでる。それを教えたのは真司、お前だろ。」
僕が翔一に………。
「買い被りすぎだよ。僕は教えたつもりも、教えるつもりもない。」
「どうだかな」
「……僕は人に何かを教えれるほど、出来た人間じゃない。」
僕の言葉に創くんが小さく笑った。
「誉められた人間じゃないことは確かですね。ですが…」
「?」
「翔一にとってアナタは希望だったのかもしれませんよ。」
それ以上誰も口を開かず、後片付けに集中した。
途中、割れたグラスの破片で切った指から血が滴った。
それを見て、ちゃんと人間だ、と安心する自分がいた。
人に影響を与えられるぐらいの価値は、まだ残っていたのかな。
なんて事を思って、指先の血を舌で舐め取った。
口の中は鉄の味がした。