マスカレードに誘われて

「夕刻、あれほど地下室の扉を開けるなと口酸っぱく言いましたのに……」

「いやぁ、だってグランド公が十字架を取ってこいって言うから」

「十字架なんて、地下室にはございませんよ」

ロイは目をぱちくりとさせ、キースを見つめた。
そして、呆然とした表情で口を開く。

「本当……?」

「えぇ。一般的に、日の光が当たるところに設置してあります。この屋敷で言いましたら……湖の反対側にある、礼拝堂にありますよ」

「嘘だっ!」

「残念ながら、現実です」

「じ、じゃあ、僕らは……」

「騙された、と言うことになりますね」

わなわなと震えるロイに向かって、キースが静かに告げる。
時として、現実とは残酷である。

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