マスカレードに誘われて

そんなことを思いつつ、ロイはふと思い出したようにグランド公へ向き直った。

「そう言えば、父を見ませんでしたか?先程から見当たらないのですが……」

「あぁ。ジェームズだったら、調子が悪いと言って部屋で休んでいるよ」

「そうですか……」

ロイの顔が暗くなる。
そんな彼の肩を、グランド公は優しく叩いた。

「心配しなくても平気だよ。そのうちよくなるさ。さぁ、戻ろうじゃないか」

「でも……わたし、戻ったところで上手く踊れません」

イヴが尻込みする。
グランド公は一瞬驚いたような表情をしたが、すぐにいつもの笑みに戻った。

「大丈夫。君達は十分上手に踊れてるよ」

グランド公に促され、二人はテラスを後にした。


テラスから見える、とある回廊。
そこで、月を覆った雲を見ながら、少女が愉しそうに笑い声をあげた。

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