マスカレードに誘われて

彼が歩く。
それに倣って、彼女も歩く。

彼らが足を進めるほどに、音楽が大きくなっていく。
警戒しながら、ゆっくりと進む。

蝋燭が揺れる。
心なしか、音に合わせて蝋燭の炎に強弱がついている気がする。

ふと、ロイは何かに気が付いたように足を止めた。
耳をすませ、左を見る。
そして彼は、隣にいるイヴに呼び掛けた。

「イヴ、見てごらん」

「何かあったの?」

「音楽の正体が分かったよ」

そう言って、彼は壁の方へ近付いていく。
イヴも恐る恐る、壁へ歩み寄った。

壁には、一枚の絵画が掛かっていた。
丘の上でヴァイオリンを弾く青年を描いた絵だ。

< 56 / 164 >

この作品をシェア

pagetop