マスカレードに誘われて

「そんな警戒せずに、軽快な心持ちでいてください」

「そう言われても……」

「私は、この場所から出ることが出来ません。出来ることと言えば、この場所で音楽を奏でるのみ。
貴殿方には手出し出来ません」

「それは本当?」

イヴの問いに、彼は笑顔で頷く。
そして、ヴァイオリンを構えた。

「ここで会ったのも何かの縁。貴殿方に、一曲差し上げましょう」

彼は大きく息を吸うと、おもむろにヴァイオリンを弾き始めた。

廊下に響き渡る、美しい音色。
先程の悲しい物とはうって変わり、華やかで美しい旋律。
思わず二人の顔も綻ぶ。

< 58 / 164 >

この作品をシェア

pagetop