マスカレードに誘われて

「何で逃げるの?どうせ部屋に戻るのに」

息を切らしながら、イヴが尋ねる。

「それはそうなんだけど……追い掛けられると、逃げたくなるんだよね」

陽気に笑いながら、廊下の角を曲がる。
途端、ロイは何かに弾かれ尻餅をついた。

「ロイ、大丈夫?」

「いったぁ……」

腰をさすり、ぶつかった相手を見上げる。
その人物を認識した瞬間、ロイから血の気が引いた。

「ロイ様、イヴ様。そろそろ、いい加減に言うことを聞いたらどうでしょうか?」

燕尾服を着た青年が、柔らかな微笑みを湛えている。
しかし、彼の背後から得体の知れない禍々しい空気が放たれていた。

イヴの顔も青くなる。

< 9 / 164 >

この作品をシェア

pagetop