マスカレードに誘われて
「何で逃げるの?どうせ部屋に戻るのに」
息を切らしながら、イヴが尋ねる。
「それはそうなんだけど……追い掛けられると、逃げたくなるんだよね」
陽気に笑いながら、廊下の角を曲がる。
途端、ロイは何かに弾かれ尻餅をついた。
「ロイ、大丈夫?」
「いったぁ……」
腰をさすり、ぶつかった相手を見上げる。
その人物を認識した瞬間、ロイから血の気が引いた。
「ロイ様、イヴ様。そろそろ、いい加減に言うことを聞いたらどうでしょうか?」
燕尾服を着た青年が、柔らかな微笑みを湛えている。
しかし、彼の背後から得体の知れない禍々しい空気が放たれていた。
イヴの顔も青くなる。