結婚してください。パンツ見せてください。
何も言えなかった。
いや、思考が追い付けなかったんだ。
その時の俺はきっと、ひどく間抜けた顔をしていたに違いない。
だが、そんなことおかまい無しに、昴は口を動かした。
「私は必死に二人を揺すりました。起きて、起きてと。しかし、すでに冷たくなった体に気づき、私は泣き出しました。すると、二階から音がしたのです」
まるで紙芝居を読む機械のように、昴は感情のない声で話続ける。
この声に少しくらい感情があれば、可哀想などと同情できたろうに。
「二階からの音は、犯人が降りてくる音でした。私の声に気づき、始末しに来たのです。私は咄嗟に、床に落ちていた包丁を取り、ドアの影に隠れました」
包丁?
俺はチラリと昴が持っている包丁を見た。
「犯人は二人でした。部屋に入ってきた二人は、暗闇の中で私に気づかず、そのまま辺りを見渡していました」
嫌な予感が頭をよぎった。
最初に言われたあの「人殺し」という言葉。
まさか……。
「私は息を潜めて待ちました。二人が近づくのを。そして、二人が私の前を横切ろうとしたその時……」
昴の言葉が止まった。
そのまま黙ってしまった。
「……殺したのか、犯人を」
否定を求める質問に、昴は小さく頷いた。
――人殺し?
「……無我夢中で刺しました。ただ怖くて。何度も何度も、刺したんです」
「…………」
「夜が明け、友人の家に出掛けていた兄が帰ってきました。私はなんとか事情を伝え、警察を呼んでもらいました」
「……兄は生きているのか」
「はい、今も元気に」
おかしいが、兄が生きていることに俺は少し安心してしまった。
「でも警察は空き巣として片付けました」
「違うのか……?」
空き巣だと思っていた俺は、拍子の抜けた声を出した。
「……家の床に、犯人とは違った靴跡が見つかったんです。警察はもう一人の犯人として捜索していましたが、一日ほどですぐに打ち切られました」
「一日って……短すぎないか」
「裏のことだと、兄が言っていました。父の仕事は警察も絡んでいるから」
「どういうことだ?裏のこととなんの関係が……」
「もう一人の靴跡、あれは父のものです」
「…………は?」
「あとから父の手帳が見つかりました。そこには、仕事で金に困り、空き巣に見せかけ家族を殺し、会社のお金を盗もうという計画が書かれていました」
「ま、待ってくれ!それだと父親が犯人みたいじゃないか!死んでいたんだろう?」
「えぇ。途中で仲間の二人に裏切られたみたいで」
頭が痛い。
つまりこういうことか?
会社の金が欲しかった父親が強盗に見せかけて妻を殺し、途中で仲間に裏切られ殺された。
だが、裏の人間であり警察と関係があった父親は犯人だと公表されず、計画殺人が空き巣の事件になった。
そんなことがあり得るのか?