あの二人に敬意を払おう
一切の焦りも無い。
指先にまで伸びた灼熱を、スペリシアは素手で――薙払った。
群青の軌跡を描き、遅れて暴風が訪れる。自分に襲い来る火柱を、たかだか手刀のみで払い退けたのだ。
およそ常人ではあり得ない事象。
その圧倒的暴力が、彼女の穏やかな雰囲気から解放されたものだとは未だに信じられない。
火の粉を払うような気軽さで、打ち払われた火柱は四方に散り、やがて虚空へ消失した。
彼女の足下に群青の魔法陣が展開されている。長い銀髪は腰辺りで結われ、群青の光が足先から腰周りまで、穏やかな竜巻のごとく渦を作る。
両者――互角。
互角であるが故に、彼らの対峙する戦場は。世界は。崩壊の一途を辿るのだった。
「ふん……どうあっても退くつもりは無いらしい」
「その冗談。一体どこから出てきたのかしら? その鎧を壊せば――分かるかもしれないわね」
「貴様の冗談、一体どこから出て来たのだろうな。その眼球を抉(エグ)れば――見えるかもしれん」
数秒。
交わされる無言の視線。
やがて――スペリシアが右腕を掲げた。
およそ正常とは言えない、崩落した天に向かって伸ばされる手。
ベベリギアが頭上に視線を向けると、大地を覆う程の、巨大な群青の魔法陣が広がっていた。