妖将棋 <十二神獣と朱眼狼>

「緋音…。いつも何気にひでぇな…」

 少しスピードを緩めながら呆れたように言うと、緋音は悪気なくすました顔で言う。

「ん? 自転車が古かったのよ」

 買い替えたばかりの新品のように見えたが、遥はあえて何も言わなかった。

 校門の前には教員が立っていて、さすがに入学式に問題になってはマズイので、緋音は自転車から下り、遥は押して歩きだす。

 新品の制服に身を包み、同中だった友達から挨拶されながら校門を通る。

「自転車置き場は西校舎裏だ。西校舎はあれだから、ちゃんと並べるんだぞ」

「はい。ありがとうございます」

 緋音は先にクラス分けを見に行き、遥は西校舎裏へと向かった。

 数人の置き待ちができていて、遥は順番が来るのを待っていた。

「すまないね。狭い所だから」

 後ろから声をかけられ、遥が振り向くと、そこには色素の薄い髪をした眼鏡の男子生徒がいた。
 学年バッジを見れば三年だ。

「いっスよ。仕方ないことだから」

「君は優しいね」

 フワッと柔らかな笑顔で返事を返され、遥は少し戸惑った。

「そ、そんなことはないと思うけど…」

「謙遜だね。君、名前は?」

「本堂です」

「本堂、何さんかな?」

「遥です」

「遥さんだね。さ、順番が来たよ。また後でね」

 ポンっと背中を押され、遥は前に進みだした。

(ん? 何で「さん」付けされたんだろ?)

 男子の制服なのだから、君付けで呼ぶのが普通なのだが、腑に落ちない点があったが、とりあえず自転車を置いて緋音のいる所へと向かった。

 
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