妖将棋 <十二神獣と朱眼狼>
その日はバイトを休みにしてもらい、夕食も簡単なもので済ませ、ゆっくり休むことにした。
早めに風呂に入り、髪を拭きながらベッドに座る。
(なんか、こんなゆっくりしてんのって、久しぶりだな…)
コロンと横になり、そのまま深い眠りについてしまった。
深夜。
じいさんがトイレに行こうと居間の前を通ると、窓の縁側で遥が月を見上げながら何かを飲んでいた。
「遥? 何をしとん…」
遥の手には盃が握られており、振り向いた顔を見てじいさんは言葉を詰まらせた。
「久しいな、玄武」
「清明か…」
遥の姿だが、遥ではなく、そこにいるのは玄武であるじいさんの前の主、安倍清明だった。
安堵したような表情になり、清明の横に座る。
「どうしたんじゃ? めったに来ぬお主が、こんな夜更けにくるなどと?」
徳利を差し出され、じいさんは盃を取った。
「なあに。月が綺麗に見えたんでな、月見酒というのも、久しかろう?」
クッと盃に残っていた酒を飲みほし、また月を見上げた。
「ふん。たぬきめが…」
一言そう言いながら一気に飲み干すと、清明は小さく笑った。