叶多とあたし

家に向かう途中の道路で、彼哉は車道側を歩いてくれる。


さりげなく優しい。



本人にそんなこと言ったらきっと

「今頃気付いたのか。俺がどれだけ優しくてイイ男かってこと」

なんて言うんだろうな。



照れ屋………。


ホントは無意識にやってるくせに。



そんなことを思いながら、彼哉を見ていたら目が合った。


うわっ

いきなりこっち向かないでよ。



思わず、不自然なくらいおもいっきり目を反らす日芽。


そんな日芽を気にすることもなく、彼哉は言った。

「そういえば、叶多(きょうた)はいつ帰ってくんの?」

!!?

なんの前触れもなく、顔面に拳をぶちつけられた気分になった。

あまりの衝撃発言に日芽の思考は停止。



彼哉の言葉の意味が理解出来ない。

まるで、聞いたこともない異国の言葉を話されたみたいだ。



仕方がないからひとつひとつ言葉を整理して理解に努めた。



「………は?」


「叶多、この前無事に学校を卒業出来たんだろ?卒業したら帰って来るって言ってたじゃん!!」

!!!?



「…………は?」


衝撃で言葉が出ないとはこのことだと思った。


『は』としか言えない。





私の大嫌いな名前。



私の大嫌いな人。



帰って来る?冗談じゃない……!!!


私のハッピーライフが終わりを告げてしまう。




…うそでしょ……。






「よぉ、久しぶり、彼哉。……それから、日芽」



よく知っている声が後ろから聞こえた。



私と似た鼻と目。



私とは違うすらりとした顎。背丈や手足。





私と同じ、黒の少し癖のある髪。






間違いない。間違うはずがない。



私の大嫌いな









私の












「お兄ちゃん…」








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