叶多とあたし
いつの間にかチャラ男は居なくなっていた。
短髪男は前髪を一旦離すと、丸刈りに向かって「おい」と合図する。
それからあたしのクセのかかった後ろ髪を無造作に掴み上げると丸刈りは短髪男にものを渡した。
一目でわかるそのものに胸が冷える。
それは、ハサミだった。
短髪男はニヒルに笑うとハサミを掴み上げたあたしの髪に当て、シャキッとハサミの金具の擦れる音がした。
すると数秒遅れてから黒い糸のようなものが束になって降ってくる。
あたしの髪の毛だった。
バサリと下ろされた髪に鼓動が大きくなる。
泣きたくなった。
それを悟られたくなくて下を向くが、あたしの目から出た水は床を濡らしていく。
悔しくて。悔しくて。
下唇を噛んだ。だが、下唇に力を入れたせいで唇は震えた。
自分でもどうしようもないぐらいに。
肩をとうに過ぎていた髪は、下ろされたときには肩にもかからないぐらいになっていたのだ。
髪は女の命
小さいころからそう教えられてから今までずっと。
髪を大切にしてきた。
だからこそ、無造作にあたしの髪を切られることは今までの自分を否定されているようで悲しかった。悔しかった。
「や……め、て…」
震える声を絞り出して反抗した。