叶多とあたし


「テメェら……」



叶多の声は、さっきとは比べものにならないぐらい低くなった。


初めて聞く声に肩が竦む。




と。



次の瞬間。



ガッシャーン。




大きな音を立てて男は吹っ飛んだ。もちろん、チャラ男も巻き込んで。




「!??」




「誰に許可取ってこんなことしてんだ?日芽が許可したのか!?」



いきなり名前を呼ばれてびくりと跳ねる。




ん、なわけ…ないじゃんっ!!




大きく首を振った。




「……だとよ。お前ら…」

「そ、そんなこと!何の証拠にもならないだろ!?は?それとも、四年前みたいにまた警察突き出すか?」


ははっと、誰がどう見ても負け犬の遠吠えを吐いた。




叶多の目が一層冷たくなる。




そして一言。



「CONERU」



「「!」」




二人はあからさまに動揺した。




何…?




「かなり有名な美容室だろ。俺も知ってる。お前ら春からここに就職するんだって?」




うっそ!こいつらが??



CONERUに就職!?



CONERUって言ったら、芸能人とかも専属にしてる人が多いっていう日本を代表する美容室じゃん!!





「何でそれ知って……!?」




「高校の同級生に聞いた。このことがCONERUにバレたらやばいよな、お前ら」




男とチャラ男は顔を青くした。


唾をゴクリと飲む音が聞こえるかのようだった。




「それが嫌ならもう二度と俺の妹にこんなことすんな!三度目はないからな!!」




妹…。



その言葉にまた、涙が溢れた。




胸の芯から熱くなるのがわかる。


これは……解る……。


あたしは、嬉しいんだ……。





男とチャラ男は揃って頷いた。



それを叶多はしっかりと見ると、


「きっかけは俺にも非があったから…悪かったな。四年前、警察呼んだの」




そう捨て置いて




「日芽、帰るぞ」



いつもの調子の声に戻って言った。




「……うん」



あたしは、唇を動かさずにそう答えた。




しかし、叶多に縄を解いてもらって立ち上がろうとして



「あ…」


思わず声を漏らしてしまった理由は、脚が痺れて立てなかったから。




すると頭上からため息が降ってきた。




叶多はしゃがんで、「ほら」と背中を差し出す。



これから高校になろうというのに兄におぶってもらうなんて…。


しかも、相手は叶多。

数時間前のあたしなら全力で拒否していただろう。




でも、素直に叶多の肩に手を掛けた。



そのとき叶多がどんな顔をしていたかわからないが、すこし体が揺れた。





今日は、甘えたい気分なのだ。




< 62 / 67 >

この作品をシェア

pagetop