叶多とあたし
新学期
今日の天気は晴れ後曇り。
だから、朝から晴れているわけで……。
あたしはのりの利いたパリパリの制服に袖を通す。
新しい服の香りが鼻に広がった。
「おはよう」
一回に降りると母がおNEWの薄ピンクのスーツを着て髪を整えていた。
「おはよ」
母に応えると、あたしは苦笑いする。
ご機嫌であたしの入学式の支度をする母。
母の嬉しそうな顔を見ているとなんだか、こそばゆくなった。
だから照れ隠しに
「ピンクのスーツなんてやめた方がいいんじゃない?年考えなよ、年!」
なんて言ったりして。
「いーの!パパは似合うって言ってくれたし!娘の記念すべき日なんだから」
それを聞いてまた苦笑する。
あの日から三日後。彼哉の両親と共にうちの両親も帰ってきた。
もう終わったことでもあるし、両親にはあの日のことは話していない。そう、あたしが叶多にお願いしたのだ。
彼哉には一応話したが、その日は一日中渋い顔をするから話しにくくて仕方がなかった。
彼哉なりに思うことがあったのだろうか。
まあ、何やかんやで新学期。
今日からあたしも高校生。
朝ご飯を食べながら思ったことを口にした。
「あれ?叶多は??」
「ん…あぁ、今日から仕事だって。ふふっ。叶多は就職。日芽は進学。今日はおめでたいわねぇ!夕飯はお寿司でも頼もうかしら…」
「ふーん…」
叶多は仕事。
そっか。もう大学を卒業していて、そんな年か。
叶多の仕事してる姿なんて想像もできないから、考えながら唇を尖らせた。
叶多とはあの日以来も変わり映えしない距離。
一度は素直になってみたものの、翌日
「素直なお前とか気持ち悪ぃわ」
なんて言われれば、もう二度と素直になんかならないと思うものだろう。
しかし、いつの間にかこの距離が心地良くなっていたのも事実である。
でも。
なんだか少しだけ…距離は近くなった気がする。