あの子の隣に座るコツ!
授業が開始されたのにも気付かず、俺は横目で彼女を見たまま、石になったように固まった。



横目でよかった。



面と向かってたら、本当に石になってしまいそうだし。可愛すぎて。



ただ、俺が固まったワケはもちろん、その美しすぎる出で立ちのみにあらず。



驚いたのだ。
隣が東條さんってコトに。


いや、厳密にそうかと言われれば、補足をした方がいい。



正確さに気をつけて表現するとしたら、“俺みたいなヤツが座るような席に、東條さんが座っている”コトに驚いていたんだ。



だって、東條さんは2のCが誇る不動の“クラス首席”。



最後尾のこんな席に、座るワケがないのだ。



授業は日本史。
今は、白河上皇の院政あたりかな。
ちょっと勉強したおかげで、わずかながら話は分かる。



ただ、山北先生の講義も、今は俺の耳に入ってこない。



なんで?
なんで東條さんが?



ハテナマークがくるくると頭の上を旋回するさなか。



ずっと黒板の方を向いていた東條さんが、こっちをちらっと見た。



目が合った。



「お…おはよ」



俺が絞り出すように声を出すと、東條さんはぱっとうつむき、顔を伏せた。



うわ。
睫毛、長ぁ…。



うつむいた彼女の横顔も、それはそれは絵になった。


菱川師宣も垂涎の、“俯き美人図”。



ヤフオクに出したら7、8万で売れそうだよ。



俺だったら100万積まれても売らないけどね。



「…聞いた、から」

「え?」


小さな、本当に小さな声で、ノートをペラッとめくる音にすら負けそうな声で、東條さんが呟いた。



「いろいろ、聞いた。アリサちゃんに」

「アリサに?」



うつむいたまま口をわずかに動かして、空気に染み込んでいってしまいそうな声を、俺は必死に聞き取った。


「ごめんなさい…あの時」


ミッションの最終打ち合わせの時のことだ、多分。



「私、大声、出して」



…うん、
東條さんにしてはね?



つまり、だ。
アリサがうまく説明してくれたらしい。



アイツもいいトコあるじゃん。あとで礼を言わなきゃな。



もっとも、アリサは自分のせいでミッションがバレたと思ってるからな。



“借りは返したから”



そんなセリフが帰って来そうだけど。
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