あの子の隣に座るコツ!
はっ、と、目が合っていたコトに今気づいたようなリアクションをして、東條さんは再びぱっと目を伏せた。



男子に免疫がないんだろうな、この子。あ、でも最初、啓一には普通に接してたか。あれは事務連絡だったから大丈夫だったのかな?



「…アリサちゃんが」

「うん、アリサ?」



あァ、ちなみに当然今は授業中だ。東條さんが私語をしてるなんて描写、滅多にないんだからな。ありがたいと思えよ?



…誰に言ってんだ、俺。



「日比野くんが隣なら」

「…うん」



「……くれるって」

「…うん?」



一層声が小さくなった。なに?くれる?俺が?



…ガムのことかな。むしろ俺はもらう方だけど(啓一に)。



「ち、違う」



困ったように首を横に振る東條さん。



美しい黒髪がそれに合わせてふわりふわりと揺れ、甘い香りがバカ席周辺に振りまかれる。



「日比野くんなら…あ、ま…」


だんだん声が小さくなって、途切れて、うつむく。


可愛すぎ。


「ま…守って、くれる…って」



消え入るような声が、俺の耳に届く。



「…だから、ココに」



だから、ココに?



東條さん、
わざと“バカ席”を選んだってこと?



成績に関わる期末テストで!?



「俺は、なんてことを…」


俺は2のCの宝に、わざと悪い点をとらせてしまったってコトか!?



「重罪だ。死ぬよ。アリサに蹴り殺されてくる!」



「ち、違う」



また、東條さんは俺の方を向いて、必死に首を振った。



「校則…12条の3の4項」

「…校則?」



「“教室の席順については、次の各号に定める”」



東條さんが、校則をそらんじる。



凄いな。校則覚えてるのか。生徒手帳に書いてあるらしいけど、一度も読んだことない。



「“第一号・主要試験において、クラス内最低得点者の席は、最後列の最も廊下側の席とする”」



この規定は、“最バカ”の席について。
この前までの俺の事だな。



「“第二号・主要試験において、クラス内最高得点者は、最前列の最も窓側の席に座ることができる”」



うん、これはこの前までの東條さん。
“クラス首席”の席の規定だ。



で、これが何か?
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