あの子の隣に座るコツ!
肩まで伸ばした上等な絹を思わせる黒髪が、きめの細かそうな白い肌を明るく際立たせている。


大きな瞳をいい具合に潤ませて、薄いピンク色の小さな唇は、薔薇の蕾を思わせる。



「ほぇーっ」

「すっげぇ美人…」



ユウキちゃんと直紀も、思わず感嘆の声をあげた。ふたりは知り合いじゃないみたいだな。ユウ先輩も知ってる感じじゃなかったし。スッスン…もとい、進も口を小さく開けたまま彼女に見とれている。



それにしても、和製人形みたいな子だな、と思った矢先、その美少女は、すらりと伸びた足をこちらの雀卓に向けたのだった。



「永野くん」



「あぁ、トウジョウさん」



「えっ!お前の知り合いなの?」



彼女が話しかけたのは啓一だった。啓一がこんな美少女と知り合いなんてあり得ない。許せん!



「委員会の提出書類、期限が先延ばしになった」



淡々とした声で、事務的な連絡を啓一に告げる。



「ふぅん、いつまで?」


「来月の3日」


「分かった。早めに出すよ」


「ありがとう」



それだけ言うと、トウジョウと呼ばれた美少女は綺麗な黒髪をふわりと翻して、教室の扉へ歩を進めた。



「ちょい待ち」



と、ユウ先輩が美少女を呼び止めた。美少女は2、3歩進んだところで動きを止め、ゆっくりとこちらを振り返った。

“見返り美人”とはこのことかね。菱川師宣が興奮の余り筆を取り落としそうだ。あ、あいつは版画師だったかな?


「こんな辺境の教室まで、よく来てくれたな。麻雀部3年、中村悠一だ。よろしくな。みんなも挨拶してけ」



わずかに小首を傾げて、美少女はユウ先輩の顔を見た。



「新立進。2年M組です」

「1年W組、杉山直紀ですっ」

「1年δ(デルタ)組、波多野優希。好物はプリンですっ」

「2のC、日比野大吾。よろしく」



ひとりひとりの顔を眺めていた美少女だが、俺の挨拶の時に、ちょっと驚いたような顔をした。



…なんだ?だれか俳優にでも似てたかな。言われたことないけど。
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