あの子の隣に座るコツ!
「あァ、もう昼休み終わっちゃうねェ。また宿題出してあげるからねェ、放課後ここ来なさい、ネ?東條くんには期待してるから、ネ」



そう言いながら、おもむろに東條さんの肩に手をかける石川。石川に触れられた瞬間、東條さんの体はぴくっと拒絶するように身を縮めた。



わぁ、可愛い…とか、言ってる場合じゃない!見てて寒気するな、アレ!



ていうか、周りの先生たちも見て見ぬフリ?あァ、大人の事情ってヤツね、リアルな方の。



教師陣が権力に負けて手を出せないなら、助けられるのは俺しかいない。クラスメイトだし。



俺は大きく息を吸って、叫んだ。



「石川センセイ!」



気付いた石川がこちらを見る。“何だ、野郎に興味はないぞ”とでも言いたげな表情で。俺だってお前に興味ないっつの。



東條さんもこっちを振り返った。とりあえずデジカメに納めたいね、その見返り美人図。もちろん邪魔な背景の石川は加工してポイだ。



「なんだね」



あからさまに不愉快な表情を貼り付ける石川と、いつもの無表情の中に小さく驚きの感情を差し挟んでいる東條さんの前まで近付く。



「何のようだね」



不機嫌そうに問いかける石川に向かって、俺は自分の頭を─頭髪をちょんちょんと指差しながら、唇の動きだけで言葉を紡いだ。








ヨ…!



「なッ!?」



石川の顔色がサァっ…と変わった。血の気の失せる音がここまで聞こえてきそうだ。



「ちょ、ちょっと失礼する」



ガタッと乱暴に席を立つと、石川はバタバタと慌てた様子で職員室を出ていった。



ザマァミロ。



東條さんは相変わらず明確な感情の無さそうな顔で俺を見た。



「あ、5限始まるよ。先行ってて」



俺がそう言うと、東條さんは数秒考えるように俺の顔を見詰め、コクリと頷いた。



それに合わせ柔らかく揺れた黒髪から、シャンプーの匂いがふわりと漂う。



そのまま、とことこと職員室を小走りで出ていく東條さんの後ろ姿を見送って、ため息をつく。



あれがウチのクラスの“クラス首席”か。



神は二物を与えずって言うけど、東條さんが生まれた時には神サマも後悔しただろうね。



与えすぎた!って。
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