あの子の隣に座るコツ!
3年K組に取り残された、

“最バカ”日比野大吾と
“クラス首席”東條さゆみ。


自分で言うのもなんだが、とんでもない組み合わせだ。先生にでも見つかったら、すぐに引き剥がされるだろうな。「バカが移る!」とか言ってさ。



それでだ。聞き間違いじゃなければ、このうつむきがちな美少女はなんと、俺に会うためにわざわざこんな所まで来てくれたらしい。



理由はどうあれ、“俺のために来てくれた”っていう事実が嬉しい。男として。別にいかがわしい意味じゃないぜ、ホント。



「…で、どうしたの?昼休みの話かな、それくらいしか東條さんに関わったエピソードがないんだけど」



思い出しても寒気がするエピソードだが。学年主任が生徒にセクハラを働くなんて。しかも周りの教師は権力に負けて見て見ぬフリ。目を疑ったね。テレビの中だけの話だと思ってた。



「…お礼、」



ぽそりと小さく唇が動いたかと思ったら、東條さんは顔をぱっと上げて、


俺の顔を見て、


何か言おうと口を開いて、


…やめて、



「…言ってなかった、から」
うつむき直してから、再び言葉を繋げた。



東條さんの目からは、世界ってのはさぞ目まぐるしく進んでいるように見えていることだろう。相対性理論の正当性を彼女の存在自体が証明しちゃってるんじゃないか?



「…………ゥ」



東條さんは俺の上履きのつま先辺りをじっと見つめたまま、空気の流れる音にすらかき消されてしまいそうな声で、


「アリガトウ」と、
たぶんそう言った。



小さな小さな声だったけど、



それは俺の心臓を思いの外騒がしく揺るがせた。
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