あの子の隣に座るコツ!
なんか、棄て猫になつかれてしまった小学生の気分だ。そんな風に思うのは、ある種の傲慢かな。何様だ、俺は。



しかし廊下を歩く俺の後ろを2、3歩遅れてついて来る東條さんの気配を背中に感じて思うのは恋心ともどこか違って、やはり路頭に迷う子猫に相対するような心持ちに近いものがあった。



東條さんが時折タッタッ、と上履きを鳴らす。距離を離されまいと小走りになっているようなのだが、俺が立ち止まって振り返ると、彼女もピタリと立ち止まってすぐに顔を伏せてしまう。



だからと言って俺が歩くペースを落としても、なぜだか東條さんもそれに合わせてペースを落としてしまうようで、結局広がった距離をやっぱり東條さんが上履きを鳴らしてトタトタと追い付いて来る構図になってしまう。



まだちょっと警戒されているのかな。



ただ、後をついてきてくれるってことは、ある程度の信用を勝ち取ったとも言えるんじゃないだろうか。



こんな、受け身系路線の極限を時速300キロで爆走しているような女の子にとっては、これは最大限の積極的行動なのかもしれないだろう?



この広い校舎なら、別に帰り道なんていくらでもあるのだから。



俺の事が信用ならないっていうなら、俺の行く先と真逆に歩いても昇降口までの距離は変わらないのだ。



えらく前向きに考えてるなって?



そりゃあそうさ。ある程度のポジティブさを持ち合わせてなきゃ、今頃自分の絶望的な学力に嫌気が差して、とっくに首でも吊っているだろうよ。



「何か部活やってる?」



俺は歩きながら後ろを振り返らずに尋ねた。



「…なにも」



一言ひとことの文字量が少ないから気付かなかったが、耳をすませば結構幼い声をしている。



「麻雀やったことはある?」

「…ない」

「ルールなら教えるから、やりに来ないか?」

「…考えとく」



3文節以上のセリフを彼女からは聞いたことがない。それでも会話というのは成り立つモノなんだな。俺が多少気を付ければ。



やっぱり“クラス首席”ほどの学力を持つ生徒となれば、これくらいクセのある性格の子も多いのかもしれないな。



この前のアリサの言葉じゃないけど、コミュニケーション能力に振り分けるべきパラメーターを、学力につぎ込んでしまったのかも。
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