あの子の隣に座るコツ!
今にも転びそうな危なっかしい足取りで歩く東條さんの背中が見えなくなるまで、俺は校門前に立ち尽くしていた。



燃えるようなオレンジの空を、地平線の境から徐々に青黒い夕闇が染め上げてゆく。



「なんとか、助けてあげたいな」



誰に聞かれることもないつぶやきを漏らして、俺も東條さんと逆側の道に足を踏み出した。



多くを語らない彼女の胸の内は計り兼ねるが、平穏な高校生活を送る上で石川のセクハラは、明らかな障害だ。



別に俺が何とかしなきゃならないワケじゃないけど、それじゃあ話が続かない。



カッコよく東條さんを助けて、退屈すぎる高校生活に、程よいアクセントと女っ気をプラスしようじゃないか。



不純な動機だな、あァ、分かってる。でも世の中ってのはそんなものさ。純粋な愛や情だけを燃料に生きていた人間なんて、マザー・テレサ以外に思い付かないよ。



損得・効率・義理・偽善、いろいろ混ざった混合燃料で走るのが普通なんだ。それが人間ってものだろう。それでもやることが正当なら褒められたっていいんじゃないか?



とにかく、彼女が助かれば文句ないだろう。あの石川が悪いというのは学校の総意でもある。



東條さんを石川の魔の手から守りつつ、ヤツを失脚させる方法が─



「うぉっ!?」



危なっかしい足取りだったのはどうやら俺の方だったようで、どうしようもなく平坦なコンクリの道で、俺は見事にすっ転んだ。
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