あの子の隣に座るコツ!
時々でも“秀才席”に名を連ねられる啓一は、実は凄い。



偏差値で換算すれば、“秀才席”の下位でも全国模試をやらせれば63から65くらいはある。そこそこの公立高校ならば学年トップクラスの学力だ。



それでも“秀才席”の上位には食い込めない。1列目の連中は、それこそ天才的な学力を持っているようだ。



偏差値にすれば、まァ68から70台ってところか?偏差値なんてそう信頼できる代物でもないと思うけどな。学力が数値化されてるほうが今後の見通しが立ちやすいってのは確かだ。



参考までに、俺の最近の模試の偏差値は29。まさにカニミソ並み。これだけ酷いと見通しなんて立ちやしない。お先真っ暗ってヤツだ。



「真っ当にテストの成績で東條さんの周辺狙っても、多分無理だよ。あの辺になるとみんな頭良すぎるからさ」



諦めたように啓一が言った。



「何か裏技とかねぇのかな。特別に前の方に座らせてもらうとか」



「アンタ、視力の低さを主張しても取り合ってもらえなかったじゃない。それどころか妙なあだ名までつけられちゃって」



アリサが呆れ混じりの口調で言った。“覗き魔”事件のコトだ。



コンタクトが合わなくて席の移動を提案したのだが、席移動の代わりに渡されたのは双眼鏡。最後列から“ソレ”を使って黒板を眺める姿が、何とも怪しくて付けられたあだ名が、“覗き魔”。



「“不審者”という枠組みでくくれば、ぴったりのあだ名ね」



「くくるんじゃねぇ!」



低視力を後ろ楯にしても取り合ってくれないのでは、他の理由じゃあ相手にすらしてくれないだろう。



「耳が悪いことにすれば?」



面白半分に啓一が言った。



「無理だろ。昨日の今日でどうやって耳が悪くなるんだ?」


「あたしが破ってあげるわよ」


「…鼓膜を?」


「ええ」


「全力で拒否する!」


それを聞いてアリサがふんっと鼻を鳴らした。


「冗談に決まってるじゃない」


「お前の場合冗談に聞こえないんだよ!」


「失礼ね!本当に冗談も聞こえない耳にしてあげようか!」


「うまいこというね、泉さん」


「啓一、他人事すぎるぞ!発端はお前だ!」




この後アリサが筆箱から本当にコンパスを取り出した時点でチャイムが鳴り、HRはお開きとなった。
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