あの子の隣に座るコツ!
扉を開けると、体育館のように大きなフロアが眼前に広がる。そこに教員用の机が敷き詰められ、昼時ともあって昼食を食べる教師たちで大半の机が埋まっていた。



「お。もう書けたのか、日比野」



ゴツい体にゴツい顔面。体育教師および生徒指導担当の逢坂哲男がやって来た。



「授業中に書いたんじゃあるまいな」



「まさか。この前のヤツと比べれば軽いもんですよ」



2枚の原稿用紙を手渡しながら、俺は得意気に言った。5日連続遅刻記念の12枚に比べれば、苦痛もそれほど感じない。



「全然懲りないなァ、お前」


「起きれないんですよ。親は朝早いし、目覚まし時計も効き目ないし」


俺の親は共働き。6時前には起きて、7時を過ぎるとさっさと出勤してしまう。俺は8時に起きても十分学校には間に合う。



「目覚まし、何個置いてるんだ」


「8個です」


「は…。近所迷惑じゃないか?」


「これ以上置けばそうなりますね。いつ苦情が来るかと、ビクビクしてまして」


逢坂はハァ、とため息をついて頭をポリポリと掻いた。


「もっと置け。苦情がきたら学校側で対処する」


「マジですか」


「お前な。遅刻だって単位認定に関係してくるんだぞ?ここ数日はHRの時間には登校して来てるが、1限や2限に間に合わなかった時もあるだろ」



出席日数が足りなければ留年になることはもちろん、授業だって規定の時間数を受けなければ落第の対象になる。



「そんなしょうもないことに学校が動いてくれるんですか?苦情がきたら学校側が説明してくれるってことでしょうか」


「まァ、説明するのは俺だ。とにかくお前は授業に間に合うよう努力しろ。俺がこれだけ言う意味が分かるか?」


「…このペースだと留年てことすか」


「察しがいいな。成績も良くないし、毎週のように職員会議にかけられているんだぞ。“日比野を2年に進級させたのは間違いだったのでは”とか」



なんとまァ、ひどい言われようだな。自分でもよく進級できたもんだと思うけどさ。



「せめて学力か遅刻グセか、どっちかでも治ればいいんだが」



「今に“秀才席”に座ってみせますよ」



「…期待してるぞ」



欠片も期待していない事は、口調と表情から容易に想像できた。
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