あの子の隣に座るコツ!
「逢坂先生ぇー」

「はいはい、何ですかぁ」


他の教師に呼ばれて自分の席に戻っていく逢坂を見送ると、俺は本来の目的物を探す。



「お…いたいた」



目線の先には机に座るひとりの教員の姿。脂ぎった顔面に、きっちり7対3に分けた頭髪(カツラ)。



2年部学年主任、英語担当の、石川だ。そして、ヤツの前の椅子にはひとりの女子生徒の後ろ姿が。



才色兼備、無口仕様の超絶美少女、“クラス首席”東條さゆみさん。



彼女は個人的な講義をしばしば石川にしてもらっているようで、今日も石川に宿題を出され、添削を受けているらしい。



さすがは“クラス首席”。勉強熱心なことだ。爪の垢を煎じて“バカ席”の連中に配給してやりたいよ。



一番必要なのは多分“最バカ”の俺だけどな。



そんなこたぁどうでもいい。重要なのはこの石川というヤツが、職権濫用気味の超セクハラ野郎ってことだ。



授業中にはめぼしい女子生徒に執拗に絡み、授業以外でも今日のように職員室に呼び出して、セクハラまがいの個人指導をはたらいている。



教師の風上にも置けない男だ。バチでも当たらないもんかね。



東條さんはというと、後ろ姿からでも分かるほど身体を小さく縮めて、石川の持ったノートを見詰めている。



「ううん、さすがだねェ、東條くん」



耳障りな粘っこい声が聞こえてくる。本当、生理的に受け付けられないな。



俺はふたりの様子をうかがいながら、徐々に距離を詰めていく。



「構文自体は100点の答案だねェ。さすが“クラス首席”ですねェ」



石川は東條さんに称賛の言葉を送りながら、東條さんの細い右の二の腕をすうっと撫でた。



東條さんはピクリと腕を引っ込めて、ますます身体を小さくする。



オイオイオイ。



学校そのものの存在意義に疑問を投げ掛けたくなる光景だ。



か弱い女の子(しかも美少女)に、立場を利用してセクハラ行為をはたらく学年主任に、権力に屈して見て見ぬフリを決め込む教師たち。



なんだコレ。
こんな奴等に格付けされて、バカ扱いをされているなんて、虫酸が走るな。



イヤ、教師たちを批判している場合ではない。



東條さんを助けないと。
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