あの子の隣に座るコツ!
あまり敵意をちらつかせると、警戒される。俺は腰を低くしてペコリと会釈した。



東條さんも俺に気が付いてこちらを振り返った。大きな瞳を見開いた、驚きの表情で。



「何か用事かね」

当の石川は、思いっきり敵意をむき出しにしてるけどな。まァ東條さんとのふたりきりの時間を邪魔されたら誰でもイラつくだろう。



ただお前の場合は法に触れてるんだよ!



「いやァ、ちょっと見学を」

「君に分かるレベルの問題ではないんだがねェ」

「見るだけ見せてくださいよ。“クラス首席”の東條さんがどんな勉強してるのか、興味があるんです」



適当に理由つけて居座る作戦。さすがに俺がまじまじと見てる前では石川もいかがわしい行為には踏み切れまい。



「…日比野くんには、難しい、かも」



東條さんが職員室の喧騒にかき消されそうな声でつぶやいた。



「…でも、勉強に興味を持つのは、大事なこと」



良いこと言うな。東條さんが言うとさすがに説得力があるよ。



東條さんのフォローをもらった俺はにこりと笑みを作って、石川のしかめっ面と対峙した。



「と、言うことです。邪魔はしないんで、俺に気にせず続けて下さい」



「むぅ…」



東條さんが承諾してるんだ。断る理由なんてないよな。石川は心底悔しそうに説明を再開した。



貴重な昼休みが潰れてしまうのは、それを睡眠時間に充てている俺にとっては結構な痛手だ。



しかしこれも我らが“クラス首席”を助けるため。東條さんとも昼休み中は一緒にいられるし、リスクとリターンを比較考量すれば、すぐに結論は出る。



もちろん、これだけのことで石川の戦意が削げるなどとは思っていない。放課後や授業中の対処も考えないといけないし。



放課後は今みたいに強引に首を突っ込んでしまえばそう難しいことではないが、問題は授業中だ。



なんとか授業中のセクハラを止めさせる施策を考えないとな。



そんな風に思いを巡らせるうちにも、講義は進んでいく。
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