あの子の隣に座るコツ!
「そういうお前は予習したのかよ、アリサ」



古文の教科書と電子辞書をカバンから出しながら、アリサに尋ねた。



「してないけど」



「してないのかよ」



「あんたに言われたくないわよ」



確かにそうだが。



「まぁ、泉さんもその席ってことは、あんまり勉強に関心がないってことだよね」



啓一の分析も然り。的を得ているな。っていうか勉強に関心がないのはお前もそうだろう。



「あたしが予習してないのは昨日体調悪かったからよ。今回この席に甘んじたのは、日本史のマーク問題の回答ずらして書いちゃたから。たったの12点だったのよ。ただの月例テストだったから助かったけど」



「あァ、そういえば泉さん、5月は真ん中くらいの席にいたよね」



「あら。永野くん、覚えてくれてるの?光栄ね」







─こいつらが何を喋っているのか、説明をしておいた方がよかろう。



気付いた人間もいるかもしれないが、そう。


うちの学校の座席は、







なのだ。



私立・心学社学園高等学校。


全校生徒、4500人。1学年1500人の、超マンモス校。


ゆとり教育のしわ寄せを食らい、生徒の学力低下・二極化現象に頭を悩ませた学園経営者のとった、苦肉の策がこれだ。



最前列の最も左側、窓際の席に座るのが1位。



右側の席になるほど、また、後方の列になるほど成績は下がり、最後尾の廊下側に座るのが最下位だ。



自分の成績、学力が常に公開される状況で、生徒の学習意欲の向上を図ったものではあるが、果たしてその効果の程は定かでない。



ただどのクラスにおいても、後方の席の生徒の顔ぶれが1年の秋頃から固定され始めるのは、多くの生徒が認識済みだった。







さて、余談ではあるが、ここで思い出していただきたい。



2年C組の、最後尾の廊下側の席の主を。







日比野大吾、




そう。




俺だ。




俺こそが2年C組50名中の最低成績取得者。



別名




“最バカ”



なのだ。



一応言っておくが、



自慢することでもなんでもない。
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