あの子の隣に座るコツ!
「俺がバカなのは分かってる。勉強はハナから捨ててるんだ。3年間、この麻雀部に来る以外は、俺は野球だけに全力で向き合ってきたつもりだ」


悔しそうに、タケシ先輩が語り出した。


「俺には野球で大学行くしかないんだ。勉強捨てて必死に努力して、この春ついに正捕手の座についたんだぜ?その野球まで勉強のせいで突然奪われるなんて、ひどい話だろ?」



「まぁ…そうスねぇ」



カラ返事をする俺だったが、胸の内はなんとも苦しい。



勉強の時間を野球になげうって、レギュラーの座をもぎ取ったタケシ先輩の目には、ただ勉強せずに“最バカ”の座に君臨してる俺はどんな風に映ってるんだろうな?



タケシ先輩は確かに成績は悪いけど、俺なんかと違ってちゃんと充実した高校生活を過ごしているんだ。



「なんとかしてあげて下さいよ、ユウ先輩」



なんだか申し訳ない気分になって、俺もタケシ先輩の肩を持った。



「日比野の頼みでもこればっかりはなぁ」



ユウ先輩はさっきタケシ先輩をバッサリ斬り捨てた程には歯切れも良くなかったが、それでも苦笑いで言葉を濁した。



「おぉ…!大吾、お前やっぱりイイ奴だな…」

目をキラキラと輝かせて、タケシ先輩は俺に笑いかけてきた。イヤ、怖い怖い。


「日比野、簡単に言うけどな。タケシを教えるのは相当ホネだぞ」


「そこを!曲げて!頼む!お願いしますっ!」


ついにタケシ先輩は額を床にこすり付け、それはそれは見事な土下座をやって見せた。


「お、おい。勘弁してくれよ…俺には俺の勉強ってのがあるんだからさァ」



「あれ。だんだんユウ先輩が悪者に見えてきましたね」


カチッと牌を切りながら、進がイタズラっぽく笑って言った。



「僕みたいなニワカ“秀才”とも、まだ1年生のユウキちゃんとも違う、正真正銘の“秀才席”の住人ですからね。弱者の粛正に見えて当然でしょうね」


啓一も面白がっているのか、やたらタケシ先輩よりな発言だ。


ていうかお前、うっかり自分で“秀才”っつったろ。


「永野まで…教える俺の身になってくれって」


「大丈夫ですよっ。ユウ先輩の説明、先生よりずっと分かりやすいし」


「ユウ先輩!」

「ここはひとつ!」

「御慈悲をっ!」


ユウキちゃんの言葉に続き、子分の3人もそろって頭を下げた。
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