あの子の隣に座るコツ!
ユウ先輩は頭をわしゃわしゃと掻きながら、麻雀部のメンバーを見回した。



「…こんな状況で断れるわけないだろ。ああ、分かったよ。教えればいいんだろ?」



「神!ありがとう悠一ぃっ!」



タケシ先輩は土下座状態から飛び起きると、ユウ先輩の手をがしっと握った。



「ただし、世界史Aと英語だけだぞ。暗記部分だけ徹底的に教える。そこだけは満点をとれ。それで十分“バカ席”の上位には食い込める」


「了解です先生!」



やれやれ。一件落着と言ったところか。



「素直じゃないんだから、ユウ先輩」

「ホントホント」



啓一と進が小声で言葉を交わしたのが聞こえた。ちらりと背後を見れば、直紀とユウキちゃんも、顔を見合わせてクスクスと笑っている。



啓一たちも、俺と同じ考えのようだ。



なんだかんだ言って、ユウ先輩は困った友人を見捨てるなんてできないヒトだ。どう転んでも結局はタケシ先輩を助ける結果になっただろうな。



「良かったですね、タケシ先輩!」



子分その1、井上がタケシ先輩に駆け寄った。



「助かった…」

「ユウ先輩に感謝しなきゃな」



尾崎と水谷が意味深な言葉を交わして、安堵の表情を作ったのが目に入った。



「なんでお前たちが安心するんだよ」



俺の問いかけで、子分3人は顔を見合わせ、何やら視線のみで相談を始めた。


「…なんか企んでたのか」


「最悪の場合は常に予定しておくべきだと思って」


尾崎が苦笑ぎみに言った。


「今年から監督変わってさ、成績重視の先生なんだよ。どう考えても今一番うまいキャッチャーはタケシ先輩だし」


水谷も苦笑いで補足した。



「どうしようもなくなったら、俺たち3人で問題用紙盗んでやろうと思ってたんだ」


井上がタケシ先輩の横で胸を張った。



「おいおい、そんなコト考えてたのか、お前ら。俺もいい後輩を持ったもんだな」


「当たり前ですよ。タケシ先輩が抜けて勝てるほど地区大会は甘くない。監督は分かってないんです」



尾崎がそう言うと、残りのふたりもうんうんと頷いて、そうだ、その通りだ、と声をあげた。



素晴らしきかな師弟愛。そう思ってユウ先輩の方を見ると、ユウ先輩は何やら難しい顔で考え込んでいた。
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