あの子の隣に座るコツ!
「うるさい。絶対安静よ。養護教諭命令」

「うっ…」


鳥井先生はとにかく俺を逃がさない気らしく、ツカツカと俺の目の前まで距離を詰めると、あっという間に壁際まで追い込んだ。


「お茶を一杯飲むまで返さないわ」

「くそ…脅迫のセリフがゆるい割にプレッシャーが強すぎる!」


きっとそのお茶も猫舌の俺がとても飲めないくらいの激アツ茶か、バラエティーで頻繁に使われる激ニガ茶に決まってる。これだけ俺を引き留めたがってるんだし。



「さァ…大人しくそこのソファーに座りなさい。大丈夫、一回くらい授業出なくてもキミの成績は変動しないわ」



なかなか核心を突いたセリフを投げ掛けてくる鳥井先生。確かに授業聞いても何言ってるかは全く分からんのだが。まるで宇宙語でも聞いてる気分になるんだよな。



と、そのとき。
俺が追い詰められている壁の、すぐ横の扉が勢いよく開いた。新しい客か?だったらやっと解放されるな。



「大吾」

「お、は?え、アリサ…ごぁっ!?」



その客人が天敵、泉アリサだと気付いたときには、超高校級の左アッパーを食らった俺の体は宙を舞い、鈍い衝突音と共に床に叩きつけられた。



「何やってんの、あんた」

「お前が何やってんだ!」



殺す気か!と、付け足してもいいのだが、聞かずとも良いことである。殺す気なのだ、コイツは。



「血が止まったならさっさと帰って来なさいよ」

「今のお前の攻撃でまた血が噴き出しそうな勢いだよ!」



あの恐ろしいまでの的確な左アッパーは、どこで会得したんだろうな?幸い血は止まったままだけどさ。



「次移動教室って聞かなかった?生物室よ。あたしにまで遅刻させないでよね」

「ぶっ…!」



アリサが放った俺の教科書とノートと筆箱が、顔にぶつかってバサバサと床に落ちた。



「…わざわざ持ってきてくれたのか」

「うっさい。早く行くわよ」


無愛想な返事をよこしたアリサは、自分の隣でニコニコ笑っている鳥井先生を完璧に無視。短めの茶髪を翻してスタスタと廊下へ出ていった。



「お、おい!待てよ。あ、先生それじゃ、お邪魔しました」



殴られたアゴを押さえながら床に落ちた教科書たちをかき集め、俺は慌ててアリサの後を追った。
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