あの子の隣に座るコツ!
俺は鳥井先生が寄りかかっている壁の前をそそくさと抜けて、扉に向かった。



「彼女?あれ」


と、意地の悪そうな声で、鳥井先生が俺の背中に言葉を投げ掛ける。



「まさか。クラスメイトです」


「一瞬ものすごい顔で睨まれたんだけど」


「“獲物を横取りするな”という威嚇でしょうね。あいつにとって俺は群れからはぐれたシマウマの子供みたいなもんですから」


「あはは。そう。またいらっしゃい。はい、これ餞別」


後ろを振り返った俺にそう言うと、鳥井先生は一枚の紙切れを手渡した。



「これって…?」


「後で見なさい。ホラ、彼女行っちゃうわよ」


「彼女じゃないですって」


「ハイハイ」


弁解しようとする俺の身体を、鳥井先生は両手を使ってくるりと反転させた。



「いってらっしゃいっ」


「うぉっ!」


そのまま背中をトンっと押されて、俺の身体は廊下へ投げ出された。


「1限始まれば他の“バカ席”の連中が来るから。相手してくれてありがとね」


「こちらこそ」



軽く会釈を返して、俺は保健室を後にした。もうだいぶ先を歩いているアリサに追い付くため、床を蹴って走り出す。



走りながら、左手に収まっている紙切れをぺらりと広げる。



「…これって」



“中間・期末考査の問題作成にあたって”



大きな見出しがまず目に入る。


どうやら、テスト問題を作る教師たち向けの注意事項のようなものらしい。



上から大まかに目を通して行くと、なるほど。


“平均点がおよそ60点になるように作れ”
だとか、


“大学受験を意識した問題を作れ”
だとか、


“指定した範囲からまんべんなく出題しろ”
だとか、


テストを作成する上でのアドバイスが書き連ねてある。


その中でも特に俺の目を引いたのが、このくだりだ。


“作成したテスト用紙は人数分印刷後、テスト作成者が責任を持って保管すること”



フム。ユウキちゃんや進の読み通り、テスト用紙は数ヵ所に散らばっているようだ。



「鳥井先生、いい“情報”持ってるじゃないか」



今日はじめて会った養護教諭から、思わぬ餞別を賜った。


アゴを打ったことも、まんざら悪いことばかりじゃなかったよな。
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