あの子の隣に座るコツ!
「でも直紀くん、勝負師って感じ。負けてても勝ってても、とにかく高い役狙って打ってるよね」


「えっ?」


アリサの観察眼は、たった1回の対戦で、直紀の戦術を見抜いたみたいだ。


まァ、はっきり言って戦術と言える戦術じゃない。むしろ博打に近い戦い方だ。


ただでさえ出づらい高得点の役を、素人に毛が生えたような牌さばきで立ち回るもんだから、そりゃ勝てないわな。


「勝てなくても、その姿勢がカッコイイわよね。無鉄砲、って言うか…そう!少年マンガの主人公みたいな」


ふぅん。少年マンガの主人公、ね。直紀のヤツ、調子に乗らなきゃいいけど。


「うぅ…そんな風に言ってくれたの、泉先輩が始めてです」



瞳をキラキラと輝かせて、直紀は隣に座っているアリサの手を取った。


調子に乗るどころか、アリサの褒めように感動してしまったらしい。



「“Boys be ambitious!”じゃないけど、男たるものちょっとは冒険心持ってないとね。あたしは直紀くんの打ち方、結構好きよ」


「泉先輩っ…!」




感極まった直紀が、アリサの手を握ったまま立ち上がった時だった。



「こーんにーちわーっ」




朗らかな挨拶と共にガラッと勢いよく開いた扉から顔を出したのは、小柄なポニーテールの女子生徒。



「さてさて今日も楽しくマージャン…マージャン…?」



1年δ(デルタ)組、波多野優希、愛称ユウキちゃんの明朗な声が、段々と小さくなったところで、俺はようやく状況を把握した。



麻雀部活動場所の、3年K組、



の、真ん中の雀卓で、見知らぬ女性の手を握る、杉山直紀、



を、目撃したユウキちゃん。



「おう、ユウキ。お疲れ」



直紀はアリサの手を握ったまま(というか、放し忘れたのか?)、いつも通りに挨拶した。



凍りついた3年K組の空気に気付くことなく、な。



アリサはと言うと、ユウキちゃんのこわばった表情と、俺と進とユウ先輩の表情をくるりと見渡して、状況を素早く察知したらしい。


どこへともなくにこりと愛想笑いを振りまくと、スルッとさりげなく直紀に握られた手を放した。



我関せずってか?


悪い女だな。まぁ、これは完全にタイミングの問題だけど。
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