ヤサオトコ
 
 田原は営業部長の池本と二人で、総務部長を訪ねた。そして、得意先の強い意向を伝え、栗崎のリストラを撤回させた。



 栗崎は先日の公園のベンチで寝転び、物思いにふけっていた。


 (あの男は、あれからどうしただろうか)


 栗崎は自殺を考えていた男の事を、ふと思い出した。


 (故郷で、たくましく生きて行くだろうか)


 (あの紐は、どうなっただろうか)


 (本当にお母さんの形見なのだろうか)


 栗崎には、今も疑問だった。



 「もう自殺なんか考えるなよ」


 栗崎がぽつりと独り言を言った。


 自殺と言う言葉を口にすると、栗崎の目から一筋涙が零れた。
 栗崎が手で涙を拭った。


 リストラは撤回されたのに、栗崎の心はなぜか晴れなかった。






 
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