ヤサオトコ

 「・・・」


 緑は両手を合わせ、祈るように、何か独り言を言っている。
 田原は怒りも忘れ、その光景を、ただぽか~んと見詰めていた。


 緑は祈り終わると、足早にその場から立ち去った。


 「あっ、行ってもた」


 緑が出て行くと、田原は我に帰った。


 「畜生!」


 「緑ちゃん、僕には・・・」


 「忘れてるやろ。とほほ・・・」
 「悔し~い。ピーピー男め。今度こそ、首をろくろ首にしてやるからな」


 田原はぼやきながら栗崎の机に向った。


 「緑ちゃん」


 「緑ちゃん。あっあ~ん。僕の愛しの緑ちゃんてば」


 田原は緑が置いたチョコレートを摑むと、包装紙の上から匂いを嗅いだ。







 
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