ヤサオトコ


 くんくん。


 チョコレートには、緑の残り香は残っていない。
 が、田原はそのチョコレートが、事のほか愛しかった。



 思わず、そのチョコレートに、田原は口付けをした。
 激しく、せつなく、濃厚に。



 「う~ん、チュ、チュ、チュッ」


 「あっ、やばい」


 濃厚な口付けをし過ぎて、包装紙が濡れて、しわしわに。
 田原は辺りを見渡した。
 まだ、誰も出勤していない。


 机の上に封筒がある。
 田原は封筒を取ると、慌ててチョコレートをその中に入れた。
 そして、捨てられたチョコレートをゴミ箱の中から取り出し、机の上の正面に置いた。






 
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