ヤサオトコ
「はい、栗崎ですが」
栗崎が電話に出た。
「私、先日、バッグを拾って差し上げた上坂絢奈です。覚えてらっしゃいますか」
電話の向こうから女の声がした。
「ええ、先日は失礼しました」
「実は、栗崎さんにお渡ししたいものがありまして。今日、お会いする事は無理でしょうか」
「もしかして、チョコレートですか」
「ええ、先日のお詫びに、手作りのチョコレートを作りましたもので」
「チョコレートなら、処分に困っています。申し訳ありませんが」
「なら、別の物にしますわ」
「プレゼントには、アレルギーを起しています。申し訳ありませんが、これで失礼します」
「あっ、待って・・・」
絢奈の声が執拗に追い掛けてくる。
栗崎は相手を無視して電話を切った。