ヤサオトコ
「部長、何のご用件でしょうか」
栗崎が沙幸に用件を尋ねた。
「あっ、そうそう、大切な事を忘れていたわ。今度、レトルトのカレーが新発売されるの」
沙幸が、意味深な笑みを浮かべ口を開いた。
「新発売キャペーンですか」
「最上級のプレミアム商品。これに我が社は、社運を賭けているのよ」
「部長、ぜひとも我が社にお願いしますよ」
「慌てなさんな。新発売キャンペーンには、予算も思い切って懸けるつもり」
「部長!」
栗崎はこの仕事が、喉から手が出るほど欲しかった。そして、課長の田原を見返したかった。
「テレビ、新聞、雑誌、ネット。それに、販促物一切の制作。もちろん、媒体もね」
「部長、それなら当然競合ですよね。我が社もプレゼンに参加させて下さいよ」
「競合は、考えてはいないわ」
「本当ですか」
「本当よ。一社に任せようと思っているの」
「一社ですか」
「そうよ。驚いた」
「ええ」
「栗崎君。どう、受ける」
「・・・」
橋爪部長の真意が良くわからない。