ヤサオトコ
「信じられない」
沙幸が窓から外を見ながら言い放った。
「何が不足なの」
「そんなに飲めない条件かしら」
狙った魚を目前で取り逃がした漁師。
沙幸は、まるでそんな漁師のようだった。
想定外の敗北感。
沙幸は言いようの無い屈辱を味わっていた。
(攻め方が間違っていたのかしら)
(攻略法を変えなくちゃ)
沙幸は責め方を変えようと思った。
逃がした魚は大きい。
諦める気は、沙幸にはさらさら無かった。
窓の下を憎い男が通り過ぎて行く。
「覚えてらっしゃい」
沙幸は栗崎の後ろ姿を、いつまでも目で追っていた。