ヤサオトコ

 「いいでしょう、パパ」
 「僕は、いいですけど」


 「決まり。これで、お母ちゃん、文句ないわね」


 野乃絵が、強引に自分の主張を押し通した。
 房江は渋々、野乃絵の提案に従った。


 栗崎は房江の方を見て寝ている。
 野乃絵は栗崎の横に寝ていても、ひしひしと孤独感を感じていた。


 (こっちを向くのよ)


 野乃絵が心で栗崎に呼び掛けた。


 (こっちよ)


 (こっちを・・・)



 (こっちを向いて!)


 野乃絵は心の中で叫んでいた。
 栗崎はじっと同じ姿勢のままで、寝返りはしなかった。






 
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