ヤサオトコ
男は少し離れた所にいる栗崎の存在に、全く気が付いていない。
栗崎はどう行動すべきか迷っていた。
「どうする?」
「見て見ぬする振りなど、出来ない。助けるか」
心がそう反応すると、栗崎は急いで二人の所へ走って行った。
「止めないか」
女の上に乗っかっている男が、驚いたような目で栗崎を見た。男の下にいる女の目も、栗崎を見てぴかりと輝いた。
「てめぇは引っ込んでいろ。この女は俺の財布を盗みやがった。礼をしてもらっているだけだ」
男は女から離れようとはしない。
「止めろ」
栗崎が執拗に止めに入った。
「てめぇ」
男は起き上がると、凄い顔付きで栗崎を睨み付けた。そして、ジーンズのポケットから、小さな折り畳み式のナイフを取り出した。