ヤサオトコ

 男は少し離れた所にいる栗崎の存在に、全く気が付いていない。
 栗崎はどう行動すべきか迷っていた。


 「どうする?」


 「見て見ぬする振りなど、出来ない。助けるか」


 心がそう反応すると、栗崎は急いで二人の所へ走って行った。


 「止めないか」


 女の上に乗っかっている男が、驚いたような目で栗崎を見た。男の下にいる女の目も、栗崎を見てぴかりと輝いた。


 「てめぇは引っ込んでいろ。この女は俺の財布を盗みやがった。礼をしてもらっているだけだ」


 男は女から離れようとはしない。


 「止めろ」


 栗崎が執拗に止めに入った。


 「てめぇ」


 男は起き上がると、凄い顔付きで栗崎を睨み付けた。そして、ジーンズのポケットから、小さな折り畳み式のナイフを取り出した。







 
< 234 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop