ヤサオトコ
栗崎は便器に座り、茶色の液体と、不快な音の両方と、必死で格闘していた。
「大丈夫?痛い?」
郁が、トイレのドア越しに声を掛けた。
「・・・」
中から、返答は無い。
「私、今から征中丸を買いに行ってくるから。待っていてね」
「いい・・・・」
栗崎の言葉は、郁にははっきりと聞き取れない。
「待っていてね」
郁は、駅前にある24時間営業のドラッグストアに向って、全速力で駆け出して行った。
こんな時の為に、郁には、大切に貯めていたへそくりがあった。
今こそ、へそくりを使うべき時。
郁は、夢中で走った。何も考えず、走る事だけに専念をした。